公的年金制度は長期的な制度であるため、社会・経済の変化を踏まえ、少なくとも5年ごとに、財政検証を実施することとされています。
令和元年(2019年)は、財政検証の年に当たるので、その公表が待たれていましが、8月が終わる頃に、ようやく、その結果が公表されました。
今回の財政検証については、「制度改正の必要性を強調したものとなっている」といった声も聞かれますが、、、
その概要を紹介します。
令和元年(2019年)の財政検証のポイント(いずれも、人口の前提は中位)
●経済成長と労働参加が進むケース(将来の実質経済成長率0.9~0.4%)では?
マクロ経済スライド終了時に、所得代替率は50%以上を維持。
●経済成長と労働参加が一定程度進むケース(将来の実質経済成長率0.2~0.0%)では?
2040年代半ばに所得代替率が50%に到達。その後もマクロ経済スライドによる調整を機械的に続けた場合、その終了時には所得代替率は40%台半ばに。
補足:所得代替率
簡単に言えば、「モデル世帯(夫婦二人)の年金月額÷現役世代の男性の平均月給(手取り)」
●最悪のケース(将来の実質経済成長率▲0.5%)では?
マクロ経済スライドによる調整を機械的に続けたとしても、国民年金は2052年度に積立金がなくなり、完全な賦課方式に移行。その後、保険料と国庫負担で賄うことができる給付水準は、所得代替率38~36%程度にまで落ち込む。
また、次のようなオプション試算も行われました。
●オプション試算A(被用者保険の更なる適用拡大を実施したと仮定した場合)
これを実施すると、所得代替率や、基礎年金の水準確保に効果が大きい。
●オプション試算B(保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択〔具体的には下記参照〕を実施したと仮定した場合)
・基礎年金の加入期間の延長
・在職老齢年金の見直し(廃止)
・厚生年金の加入年齢の上限の引上げ(75歳まで)
・就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大
これらを実施すると、年金の水準確保に効果が大きい。
結局、「経済成長と労働参加が進めば維持可能」で、それを確実にするためには「被用者保険の更なる適用拡大や保険料拠出期間の延長などの制度改正が有効」という結果になっています。
政府は、早くも、それらの制度改正の準備を進めていますので、財政検証を利用してその必要性をアピールしたような感は否めません。
被用者保険の更なる適用拡大や厚生年金の加入年齢の上限の引上げは、企業実務にも大きな影響を及ぼしますので、その動向から目が離せません。
【参考】厚生労働省>将来の公的年金の財政見通し(財政検証)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html